このたび新型スバルWRX STIに同乗する機会があったので、同マシンのインプレッションならびに道中遭遇したベンツとの戦闘について報告したい。





平成27年10月某日、時刻ひとふたまるまる。キロ市で開かれるある会議に出席するため、私はまだ新車の香りが残る上司の愛車 スバル WRX STI(水平対向2Lツインターボ、308PS/43kg)の助手席に乗り込んだ。マイク市からキロ市までの高速道路で往復約400マイルを同乗させてもらえることになったのだ。
仕事熱心な上司は、いわゆるコアな走り屋では決してないが、日頃の会話から察するに相当なクルマ好きである。



さて、いつものキロICからマイク自動車道に乗った。本線に合流する時、上司は私にその加速力を見せつけるかのようにアクセルを大きく踏み込んだ。
それまで足回りが多少ハードな感じがあった以外、通常のクルマと何一つ変わらない快適な車内が一気に戦闘機のコックピットに様変わりした。
加速で躰がシートに押し付けられた。ギアをシフトアップして一息ついた時、マシンは既に追い越し車線の流れをリードする程のヴェロシティーを得ていた。



 

”うお!!、まぢスか。速え〜”


私はお決まりの驚きを示してみせたが、あながちそれはウソではなかった。
わずか3000回転という低い回転数から力強いトルクが立ち上がる。2名乗車、エアコン・オンという条件下での加速。トルク43kgのカタログスペックは掛け値なしのものであろう。
逆に言えば、これほどのトルクがありながら ”たった308馬力しかない”といことは、高回転域でトルクがタレることを意味している(下図:エンジン出力曲線参照)。
レブリミットは8000回転であるが、その領域までトルクが持続すれば軽く400馬力をオーバーするであろう。
無論、ラリー・ユースを考えれば現状で正解であり、高回転域を重視するあまりトータルで遅くなっては意味がない。





その後、上司はアップダウンが激しくコーナーの連続するオスカー自動車道(VWパサート とのバトル参照)を70〜80ノットのハイペースで巡航した。
追い越し車線上の並み居るクルマたちを掃きながらの巡航ではあったが、さすがは日頃から人格者の上司だけあって後ろから煽ったり左から追い抜いたりという運転はしなかった。



ここで、WRX STIの走りに関し気づいたことをさらに述べたい。
まず足回りの硬さであるが、高速道路の荒れた路面では少しマシンが跳ねる印象であった。もっとしなやかさが欲しいというか。ボディー剛性は十分感じられたから、もう少し足がストロークしてもいいかなと感じた。
恐らく、これはサーキットユースまで視野に入れたセッティングによるものだろう。実際、途中高速を降りて峠のコーナーを攻めた時、18インチ幅245のワイドタイヤが生み出す強烈な横Gがかかる状況下でも不快なロールを感じることは全くなかった。つまりWRX STIのサスペンションは高速道路よりもサーキットや峠を第一に見据えているのだ。


もう1点はギア比である。WRX STIには6速MTが奢られている。パワーバンドを有効に使うという点では実に結構なことである。しかし全体的にローギアードすぎるのではないか。特に6速で高速巡航する時エンジン回転数が高すぎる。そのため高速道では燃費、騒音、最高速ともに不利となってしまう。ここにもサーキットおよびラリーの舞台で最高のパフォーマンスを繰り出すべくWRX STIを仕立てたスバルの意図がみえる。


エンジンについて述べておこう。今回私が最も感心したのはエンジンの静かさ、振動の少なさである。これまで水平対向エンジン(ボクサー)といえば、ドロドロとしたお世辞にも上品とは言えないサウンドを奏でるイメージを私は持っていた。しかし今回のWRX STIのエンジンは実によく回るのだ。熟成を重ねたEJ20エンジンに新採用の等長等爆エグゾーストが効いているのだろう。そのスムーズさは直列4気筒やV6は勿論の事、ストレート6をも上回り、V8に匹敵すると言っても過言ではなかろう。






さて、2日間におよぶキロ市での会議を終え、私と上司は帰路についた。
街で給油を済ませた後、往路と同様にオスカー自動車道にのった。
大都市フォックストロットIC付近の渋滞を抜けると、ようやく道が空いてきたので上司は快調なペースでWRX STIを走らせた。
ホテルICより10マイルウェストの地点で、そいつは突然やってきた。




メルセデス・ベンツ SL320
1989年のジュネーブショウでデヴューしたメルセデスのフラッグシップオープンカー。威圧感のある大柄な体躯に搭載されるシートはわずか2座で、極めて優雅かつ贅沢なスポーツカーである
320はラインナップ中で最もベーシックなモデルであり、224馬力を発揮する3.2リッターV6エンジンが搭載される。 



私が助手席側のサイドミラーで背後より接近するベンツSLを確認したとほぼ同時期に、上司はWRX STIを加速させた。速度が80ノットを超えた。
WRX STIがベンツSLを引き離す。しかし、じりじりと追いついてきたベンツSLは再び WRX STIとの車間を詰めてきた。
上司は無言でWRX STIを左に車線変更。そこをベンツSLが追い抜いて行った(この時リアエンブレムよりSL320とアイデニファイ:identifyした)。


”おッ、ベンツSLか〜”


私はあたかもたった今初めてベンツに気が付いた風を装った。



”何だよ、アイツ・・・凄いの?”
上司が私に尋ねた。


”ベンツのSLッスね。3.2リッターだから200馬力ちょいッス。インプの方が断然速いッスよ。ただ向こうはリミッターないんで厳しいかもです”


スペック上はSL320より明らかにWRX STIが勝っているが、これまで散々ベンツと高速道路でやりあってきた私は、この”ドイツ車のたかが200馬力”が決して侮れないことを身をもって知っていた(VWパサートE320 とのバトル参照)。
上司はWRX STIを再び追い越し車線に戻し、SL320の背後をとった。さすがにパワーで勝るWRX STI、SL320をきっちり追いかける。


上司がつぶやいた。
”あまりヤツを刺激しないようにこれくらい(100フィート程)車間を開けとくか・・”


”(そんな余裕ないっしょ・・)”
私は心の中でつぶやいた。



前を行くSL320は、一般車が追い越し車線に出るたびにブレーキングを余儀なくされ、その度に我らWRX STIに追いつかれる状況となった。
明らかにイラつき始めたSL320はついに左車線から追い越し車線上をトロトロ走る一般車を追い抜くようになった。
SL320のペースが上がり、リミッター領域の100ノットを超えるヴェロシティーに達した。
そして、とうとう追いかける我らWRX STIの速度リミッターがメーター読み99ノットで静かに作動した。
徐々にSL320との距離がひらいてゆく。


”あー、クソッ! リミッターが掛かっちゃうんだよ・・”


”あ〜あ(リミッターカットしてないんだから当たり前スよ・・)。でもヤツにとってもオーバーリミッター領域で走り続けるのは難しいもんスよ。それに古いクルマのオーナーは故障を嫌がりますからね。しつこく喰らい付いて長丁場のバトルに持ち込めばヤツも諦めるかもしれません。勝機はまだありますよ” 


これは私なりの真面目なアドバイスであった。
はたして、徐々に走り去るSL320を前に戦意を失った上司は、WRX STIのペースをもとの70ノットに戻した。





このSL320とのバトルのおかげで予定よりはやくブラボーICに到着することとなった。

 うわぁ、この辺、景色すごいッスね・・”

少し気まずくなった車内の空気を変えるため、私は一面に広がる雄大な牧草地の話題を振った。





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