2014年2月のある朝、夜間任務を終えた私はマイク自動車道を経由してインディアブラボーからキロウィスキーに向かっていた。
天気は良いのだが、予報の如く高いPM2.5濃度を反映して黄色とも桃色ともつかぬ色に染まった空に、私は妙なまぶしさを感じた。
タンゴICで下り線に合流してまもなく、そいつはやってきた。





はるか後方より、ライトを煌々と輝かせて、猛烈な速度で接近してくる1台の車をルームミラー上に認めた。
道が緩やかなカーブを描いているような時、直線であった場合よりも、敵機の接近スピードは実際以上に強調されて感じるものである。
強烈な威圧感を放つクルマに背後をとられ強い緊張に包まれた私は、前車を追い越すフリをして右車線に移動し速度を70ノットまで上げた。





背後に迫ってきたのは新型BMW5シリーズワゴンであった。
近ごろ敵機に関する情報収集をサボりがちであった私は、敵の機種をしばらくのあいだアイデニファイ(identify)できなかった。
その大きなキドニーグリルが7シリーズのような威圧感を帯びていたことも影響したかもしれない。



シエラ峠トンネルに入り、前後に連なった2台の速度が上がってゆく。走行車線にいる一般車に迷惑を掛けたくないので、速度は80ノットまでにとどめることにした。
BMW5シリーズもまずは様子見というかんじで必要な車間をとって我が33Rについてきていた。小僧ちっくな煽りはしてこない。おそらく相手は戦い慣れた手練れに違いない。



私のこれまでの経験から言うと、高速道でドイツ製大型ツーリングワゴンと生半可な気持ちで交戦すると痛い目にあうことが多い。
なぜなら、それらがアウトバーンで培われた技術により100ノット以上の領域を十分にカバーしていることは言うまでもないが、ドライバーの方も躊躇なく”踏む”ことが多いからである。
つまりスタイリッシュなセダンでなく実用第一であるワゴンをわざわざ購入するオーナーは決してエンスージアストではなく、正にリアリストだからである。
愛車を高速移動のツールと現実的に捉えている彼らは、ひとたび戦闘となればウエポンの性能を出し惜しみはしない。





話が脱線した。
さて相手がBMW5シリーズワゴンであることは判ったが、はたしてそのグレードは535i (3L直6ツインターボ 306PS)か 550i (4.4L V8ツインターボ 450PS)か?
両者で高速域の戦闘力はふたまわり違ってくる。その点をリヤエンブレムより確認したい。
私は33Rを走行車線に戻し、BMWに追い抜かさせようとした。
しかしBMWはこちらが走行車線に戻れば同じように戻り、我が33Rを追い抜こうとはしなかった。



BMW5シリーズワゴンも当機を警戒しているのか、その動きはなかなか慎重であった。
かといって、BMWがただ流しているだけだと理解するのは早合点である。
こちらが速度を上げて引き離そうとしても、きっちりBMWはついてくるからである。



ここまでの過程で私はこのBMWドライバーの特性(プロパティ)を次のように推測した。
・ 行動様式から、イザとなればオーバーリミッター領域に持ち込めるという余裕が感じられる
・ 無理に戦って勝つのではなく、相手に勝機がないことを悟らせ ”戦わずして勝つ”ことを狙っている



もし私の推測が正しければ、この先キロICを超えた後の2マイルに渡る長いストレート区間でこちらが勝負に出れば相手も隠した爪をあらわにするはずだ。
そうであれば、この戦闘は最初から最後まで一つの線でつながることになる。
実際、私はこれまで何度もこのような試合運びで外車と戦ってきた。
仮にBMWが私の挑発に乗らず、戦いから離脱するようなことになれば、私はただの道化であったことになる・・・・。





キロICを過ぎて、工場を横に眺めるストレート区間がやってきた(*
ボクスターE550アウディA6との戦闘を参照)。
幸いにも周囲には全く一般車がいない。
私はハンドルをしっかり把持し、アクセルを大きく踏み込んだ。
普段エンジンをブン回していないこともあってか、我が33Rのマフラーから淡い黒煙が拡がる。少し恥ずかしい。
このようなマフラーからの黒煙は、本気を出してアクセル全開にしたことの証拠として見落としてはならぬ戦略的重要所見だからである。



速度はまたたく間に130ノット近くに達した。はたしてBMWはついて来ているのか?ルームミラーを見ると、我が33Rのかなり後方にBMWの機影を認めた。
しかし2台の車間が拡がり続ける感じはない。ということは、BMWも全開にして追いかけてきているのだ。やっと本気を出してくれたか。
やはり私の読みは間違っていなかった。この手のクルマはこの状況で必ず追いかけてくるのだ。
おそらく並みの走り屋マシンでは、確実にBMWへ”駆け抜ける喜び”を供する結果になっていたであろう。



そのあと一般車が増えてきて私が減速すると、何台か後ろでBMWが追いついてきた。
私は勝利の余韻を隠微に味わいながらマイクICにランディングした。




  
                               
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