この格言が理解できるなら、かなりの修羅場をくぐってきたに違いない。
『ポルシェに負けないことは可能でも、ポルシェに勝つことは難しい』


    
200X年11月のある休日、私は愛車JZS147アリスト・ターボを駆り、30マイルサウスウェストのマイク・シティーを目指していた。
シエラ峠の長いトンネルを抜けた時、ルームミラーに1台のスポーツカーが後方から接近しているのが見えた。



” あっ、ポルシェ! 来やがった! ”



私はあわてて左車線にアリストを戻し、猛烈な速度で接近してくるポルシェに備えた。


     


当時モデルチェンジして間もないボクスターS(水平対向6気筒 3.3L自然吸気 295PS)であった。
ボクスターが我がアリストを抜き去って行く。
私は追い抜いて行ったポルシェの後を追うために追い越し車線に移り、アクセルを踏み込んだ。



ボクスターとのバトルが始まった。
当時駆け出しの最高速ランナーであった私は、ボクスターの首を獲ってやろうと意気込んで後ろから攻め立てた。
確かに相手も速いが、当時国内最強を誇った2JZ-GTEを積んだ当機にはまだ余力がある。



と、ここでボクスターが右に車線変更し、我がアリストに道を譲ってきたのである。
私はボクスターを追い抜いた。


” ヨッシャー。 やっぱポルシェなんて格好だけで、大したこたぁねーや ”



しかしそれは早合点であった。ボクスターは再び追い越し車線に戻り、我がアリストの背後に喰いついてきている。



” ボクスターめ、今度は後追い作戦ときたか ”
闘いはまだ終わっていない。



” さあ、どこまでついてこられる? ボクスターよ ”
キロICを通過して、道は長いストレート区間となった。



我がアリストは
350馬力、相手は290馬力程なので直線で引き離せると考えていたが、実際はそうはいかなかった。
踏んだ直後はトルク差で引き離せるも、その後120ノットを超えた高速領域でじりじり車間を詰められる。



” うわ、マジか・・。 ボクスターのくせに伸びやがる・・ ”
  

     


自然吸気エンジンであるボクスターの絶対的な加速自体は、国産ハイパワー勢にとって驚くべきものではないかもしれない。
しかし、3Lを超える排気量、少ないCD値、息の長い加速ができるギア比により、意外なほど最高速がノビるのだ。従って、どこまで逃げても追いついてくる感じなのだ。
これが高速道でポルシェをナメてはいけない理由なのである。たとえボクスターや素のカレラであってもだ。



ストレートが終わりコーナーの連続する区間となった。
先行する私は国産走り屋のプライドにかけて、かなり無理をしてコーナーを攻め続けたが、ボクスターは徐々にペースを落とし戦線を離脱していった。



” アリスト速いね〜 ”


インターを降りて信号で横に並んだ時、ボクスターに乗る壮年の紳士が晴れやかに声をかけてきた。それは、たった今まで戦ってきた敵と仲良く話しをすることなど考えもつかなかった若僧の私にとって新鮮な驚きであった。
信号が青に変わるまでの短い時間、我々は互いの健闘を讃え合った。




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