2013年3月のある晩、私は25マイル離れたインディアブラボーを目指し、R33GT-Rでマイク自動車道を北上していた。
い越し車線を制限速度+αで流していると、先ほどから1台の国産車が付かず離れずの距離で追尾してくる。煮え切らないその態度に私が退屈を感じ始めた時、国産車があわてて走行車線に戻ったのがルームミラーを通して見えた。そしてその背後から、ライトを煌々と輝かせた1台の車が現れ、当機に向けてかなりの速度で接近してきた。
左右のヘッドライトの間隔から予想するに、かなり大きな躯体である。バトルの予感とともに緊張が私を襲う。


  

まもなくそのクルマは、わがR33GT-Rの背後に張り付いてきた。どかせようとするためか、車体をR33GT-Rから半分横にずらしてベタ付けしてくる。
三角形をした特徴的なヘッドライトが、サイドミラーではっきり確認できた。


        


コワモテの正体は、W221ベンツSクラス (S550)であった。久々の大排気量ジャーマンの襲来に胸が躍る。
場所はシエラ峠、直線と緩やかにカーブするトンネルが続く高速ステージ(vs E63AMG911カレラ 参照)。



追い越し車線を塞ぐことはマナー違反であるから、私は道を譲るかもしくはさらに速度をあげるか、どちらかを選択せねばならない。
しかし、あからさまに加速するのは無粋である。私はじわじわと速度を上げた。
徐々に速度が国産リミッター域に近づいてゆく。



言うまでもなく、ベンツSがその程度の”低速”で煽ることを諦めてくれることはない。
高速バトルに慣れていない国産車ドライバーにとっては、リミッターが掛かる速度は精神的に限界を迎える速度域でもある。そのポイントで背後から外車に煽られることの精神的ショックは大きいものがある。そうやって植えつけられたトラウマが、ベンツを始めとしたドイツ車は怖い、高速では敵わないといった伝説を作るのであろう。
しかし、年がら年中すてごろ生活を送っていると、これは彼らドイツ勢のお約束の戦闘パターンである事が分かってくる。




私は33Rを左に車線変更し、ひとまずベンツSを追い抜かせることにした。後追いでS550とのバトルを楽しもうと考えたのである。
ブラックのS550 ( 387PS  54kg ) が横を通り過ぎてゆく。


        


では追尾開始。左のコーナーを抜けてNシステム、バンピーなS字をリミッター領域で追走する(Z34フェアレディー との戦い参照)。
小石の掃射を受けて、我が33のバンパーに刻まれる漢の勲章がさらにひとつ増えてゆく。



ところで、超高速バトルでは、車間はある程度あけた方が安全であり、かつ、それでも前車には十分なプレッシャーを与えうるものである。
なぜなら、アマチュアドライバーの心理として、たとえバトルで先行していても相手を引き離して消し去らなければ安心できないものだからである。
余談だが、プロのレーシングドライバーを後ろから煽っても効き目がないのは、言うまでもなく踏んだ場数によるものではあるが、別の理由も存在する。
実際レースでは、自分がトップを走っている時、追い上げてくる相手のペースに合わせて抜かず離れずの距離をキープすることが多く行われる。これはマシン各部にかかる負担を和らげたり、無理をしてスピンやコースアウトする危険を回避するためである


          
さて、そのあとベンツS550が国産リミッターをさらに大幅に超える超高速域まで攻め入ることはなかった。長いトンネル内のストレート、この先のタンゴICで降りる予定なので勝負を決めるのはここしかない。私は110ノットでS550を左車線からパスし、そのままアクセルを踏みぬいた。



トンネルをぬけて静寂が戻った時、今日はタービンがサージングしなかったことに初めて気がつた。
季節は、もう春を迎えようとしていた。




                          
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