それは2012年10月某日、秋晴れの素晴らしい休日であった。
暇を持て余していた私は、弟を誘ってRC水上飛行機マニアが集まることで有名なシエラジュリエットの湖までドライブすることにした。



いつものキロ・インターチェンジでマイク自動車道上り線に乗り、シエラ峠登坂車線にさしかかった時だ。
後方より虹色に美しく輝くライトを点灯させたベンツEクラスが接近してくるのが目に入った。すてごろ人にとって、最高にゾクゾクする瞬間である。



” 敵機襲来! 直ちに警戒態勢に入る要ありと認む! ”
私はナビシートに座る弟にこう告げた。



追い越し車線を走行中の私は、闘いに備えるためアクセルを踏み込んで速度を上げた。
当機の加速を察知したのだろうか、ベンツEはみるみるうちに我が33Rに接近してきた。このような時、敵は威嚇の意味も含めて敢えて急速に接近してくるものである。



  W211 E63AMG 6.2L V8 514PS 64.2kg


” おい、マジか。こいつぁ、E63AMGだぜ。これまで最強の敵かもしれねぇ。覚悟しとけ、弟よ ”
ルームミラー越しに、ノーマルベンツとは異なる攻撃的なフロントバンパー、低く構えたボディから極太のタイヤが見え隠れする。
面白いもので、普段から研究を重ねているとわずかなディテールの違いやマシンの醸しだす雰囲気から、相手のグレードや前期後期の区別まで分かってしまうものである。



E63は追い越し車線を走る我が33Rの後方についた。だが決してアグレッシブに煽る感じではない。実はこの手の高性能外車が最初から手負いのイノシシの如く他車を煽ることは少ないのだ。彼らは、段階を踏んでネチネチと攻めてくる場合が多いのである。



これはマシン自体の余剰パワーが大きいために想定外の状況に対応できる ― 例えば急に前方に一般車が割り込んできてブロックされ、その間に追いかけている敵機が逃亡したとしても、すぐに追いつくだけのパワーを持っている ― ためであり、また彼ら自身高速バトルの経験が豊富であるがゆえに、戦闘形式がある程度パターン化されているためであろう。



私はE63の追尾をかわそうと33Rを加速させた。加速Gで体がシートに押し付けられ、速度が80ノット→90ノットと上がってゆく。
しかしE63は余裕でくいついてきて引き離すことができない。



まあ無理もない。相手はEクラスのボディに6.2リッターのチューンドV8をぶち込んだバケモノだ。
速度はついに国産リミッター域に達した。当然背後のE63にはリミッターはついていない。E63AMGは我が33Rにさらに接近してきた。
私は左車線に移り、E63に道を譲った。E63は100ノットからさらに加速し、我が33Rを追い抜いて行った。



” (リミッターつきの国産でイキがってんじゃねーよ) ”



E63のハンドルを握っていたのは、齢(よわい)60歳前後の者で、車内には他に数名の男達が搭乗していた。
社会の模範となるべき年齢層、社会的地位の者であっても、最高速バトルという愚行から自らを律することが困難であることを本例は示している。



私は弟に訴えた。
” だ、ダメだ・・・やっぱりAMGには敵わないよ・・・ ”



しかし、弟は既に私の弄した小細工を見破っていた。
” つまんねーギャグはその辺にしとけ、カッカッカ・・・ ”





              
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