2012年7月某日、33GT-Rでマイク自動車道下り線シエラ峠(vsパサート2.0アウディS4)を移動中、ポルシェ997911GT3と遭遇した。



ただならぬ雰囲気を察知した私のレーダーは、その存在を後方のかなり離れた所から補足していた。
キラめくライトが二つ、当機に向けて
に急速に接近。
タンゴICから我がGT-Rを煽っている背後のプリウスとの ”お遊び”に少々飽き始めた私に強い緊張が襲いかかる。
当機も並々ならぬ速度で巡航しているにも関わらず、敵機はまたたく間に追いついてきた。



           


” ポルシェ!! (キタアー)  ノーマルのカレラとは異なる戦闘的なフロントマスク・・
  もしかして997のターボ?  だとするとチト厳しいか・・ ”


私は力がこもりそうになる右足を自制した。まずは相手の出方を窺う。一気に加速体制に入る(一撃離脱)のは無粋なのだ。
経験をつむと、バトルデザインを描いたり相手との駆け引きができるようになる。このような時、初心者は最初から全力で敵に挑みがちである。
そして、ただ自分の後方に張り付かれただけで相手の実力が上だと早合点して戦意喪失してしまうといった初歩的な愚を犯してしまう。
一撃離脱 を狙うのはそれが確実に奏功しうる時のみとし、それが無理な相手である場合は長期戦になることも考慮したバトルデザインを描か ねばならない。
ポルシェは接近しながらさらに速度を上げ、右車線より我が
GT-Rをパス。室内にはロールケージ、リアには大型のGTウイング、そしてエンブレムにはGT3の文字が。



なるほど、ポルシェGT3といえばカレラと同じくノン・ターボとはいえ、最高速度は
310q以上に達するマシンだ。
ベンツや
BMW、あるいはアウディなどとの勝負では彼らのスピードリミッターに助けられることもあるが、ポルシェ相手ではそれは期待できず、大変厳しい戦いを覚悟せねばならない。
一方、元来コーナリングマシンであるポルシェ
911のホイルベースは極端に短く、しかもピュアなレーシングモデルであるGT3は4WDのターボと違って後輪駆動(RR)である。そのようなスパルタンなマシンを駆って、彼はどこまで踏んでこれるだろうか?



ニスモのフルスケールメーターは既に国産リミッター域に達していた。ここが勝負のスタートラインである。


  



GT3
にくらい付きつつ、緩やかなコーナーを抜けると2マイルにわたる長い直線のトンネル。両者は申し合わせたようにアクセルを踏み抜いた。
4速全開8300回転から56000回転にシフト。腰下ノーマルの我がRB26にはやや荷の重いHKSGT2540タービンが、この領域に至り初めて重い腰を上げる。
メーターを見る余裕はないが、その針が3時を過ぎようとしているのが正面視野をはずれた部分で感じられた。



テクニカルな面で、いま私がなすべきことは何も無い。前方の安全確認と、ハンドルの保持と、床まで踏みつけた右足を戻さないことだけである。
スリップストリームの助けもあるだろうが、じりじりとGT3に近づく。
GT3420hpとわが33R500hpの違いは、4速領域まではほとんど実感できず、5速領域に入ってようやく明らかとなる。言うまでもなく、そこに馬力の意義がある。
街乗りにせよ峠にせよ、あるいはミニサーキットであれ、普段はエンジンの”トルク”がモノをいう。しかし、最高速は正真正銘 ”馬力”が支配する特殊な世界である。

GT3も自然吸気エンジンでこの速さとは恐るべしだ。やはり3.7Lという排気量とチューンされた高回転のパンチが効いている。



この超高速域でも、長いホイルベースと電動ハイキャスを備える
BCNR33の直進性は素晴らしく、ハンドリングも頼もしい。
一方かつての
ポルシェは高速域でフロントの接地感が希薄になると評されることがあったものの、岩のような剛性と優れた空力を持つ997にとっても、この程度の速度域はまだまだ余裕だろう。

  


2台の速度が140ノットに近づいた時、トンネル内前方左車線上に1台の普通トラックが走っているのが見えた。
と、ここで前を行くGT3を私がさらに追い上げて左からパスしようとした瞬間、GT3は左に車線変更して減速。私はそのままGT3を追い抜く格好になった。



シエラ峠トンネルを抜けると、高速道は
起伏が激しくきついコーナーが連続するニュルブルクリンクのようなコースに変わった。
一般車両も増えてきたので、バトル中の高速を維持したまま先行することは私にとってあまりにもリスキーと思われた。
私の減速に合わせてGT3も徐々に速度を落していった。ルームミラーに映るGT3はきっちり車間を保ち、無意味に煽ってくることはなかった。



トンネル内での減速も、きっとGT3のドライバーのポリシーに従ったものであろう。相手が相応の修羅場をくぐってきた者であるかどうかは、自然に分かるものである。
まもなくキロICに至り、私は手を振ってGT3に挨拶し下車した。
私より幾分年配の彼もニコニコの笑顔だった。




                              戻 る






 

inserted by FC2 system