2014年9月某日、時刻はふたまるまるまる、仕事を終えた私は愛車ブルーバードに乗って帰路についていた。
峠に向かう途中の閑静な住宅街を走行中、後ろから2つの丸いヘッドライトを持つ車が近づいてくることに気が付いた。



” おっ、・・ポルシェ? ”



良く見るとそれは涙目(との表現で正しいか?)の996型911であった。



” 後期のカレラか? 996のターボってこたァねーよな? ”                          



私は特に興奮しなかった。
GT-Rに乗っていた頃であれば、ポルシェに後ろをとられるなど間違いなく心臓バクバクものの状況であるが、今は全く太刀打ちできる相手ではない。



峠(vsロードスタークラウンアスリート 参照)に至り、私はアクセルを軽く踏み込んだ。
すると背後で私をロック・オンしていた911は無駄だと言わんばかりに加速し、我がブルーバードをブチ抜いていった。



911カレラ 3.6L 水平対向6気筒 320馬力 37.7kg



バトル開始。私もブルーバードのアクセルを床まで踏込みポルシェを追跡。
だがいかんせん1.8LのNA(自然吸気)は遅い。速度は65ノットを超えるも90フィート離される。
ポルシェも私が追いかけていることに気付いて戦闘態勢に入ったようだ。
本気で踏んだことを示す臭い排気ガスが路上に残り、それが我がブルーバードの室内に入ってきた。





なぜ私は敵(かな)わないと分かっている相手に挑むのか?
それはこれまでに書いたすてごろ日記で既に言及している。



すなわち、純粋にマシンの性能で勝負が決まるサーキットと異なり、ストリートバトルにおいてはマシンの性能だけで勝敗を予測することはできない。
道路の混雑状況などに左右されたり、ドライバーの技量もピンからキリまであるからだ。
たとえ勝つことは無理でもイタチのすかしっぺくらいのことは可能だ。
ポルシェとて追いかけてくる我がブルーバードを視界から消し去らねば心理的に落ち着かないであろう。



実際、私もGT-Rで何度も同じ状況に立たされ心理的に追い詰められたことがある。
一度ぶち抜いた相手を完全に振り切れればそれに越したことはない。しかしストリートバトルでは、相手を引き離せなかったり再び追いつかれることがある。
心理的に追い詰められる理由は、格下の相手を一度は制した手前バツが悪いのと、相手が戦意を維持する限り戦闘から降りることができないことによる。
たとえいかに速いマシンに乗っていようとも、これはストリートで走る限り全ての走り屋が直面する状況なのである。



とここでブラインドコーナーにおいてポルシェが前を行く遅い軽トラに捕まった。コーナーを抜けると軽トラはウインカーを出してポルシェに道を譲った。
しめしめ、私は一気にポルシェとの差をつめ、べた踏みのままポルシェに喰らい付いた。



峠の下りにはいり、連続するコーナーをブレーキングを駆使して攻める。
ポルシェはさらにスピードを上げるのか?
ポルシェの真の速さがこんなものでないことは勿論分かっている。



実は私が今回最も興味があったのはまさにこの点においてである。この状況で彼がどう振る舞うかだ。
夜の峠でリア・ヘビーのポルシェを振り回すリスクを冒してでも頑張って相手を振り切ろうとするか、それとも一度抜いた相手に張り付かれるバツの悪さを甘受して大人の走りをするかだ。





我がブルーバードに追われたポルシェの挙動はタイトなS字の切り返しを含めて落ち着いていた。
わずかでもポルシェが無粋な振る舞いをしてくれることを期待していた私はやや拍子抜けした。



”ぬぅ、ポルシェはこちらの作戦を見切っているのか? 途中までは闘争心をみせていたが・・。いずれにせよ喰えぬドライバーよ・・ ”



峠を下りて前方の信号が赤に切り替わった。
停止する私を出し抜くかのごとくポルシェはさりげなくダッシュして交差点に滑り込み、そして走り去った。






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