2014年4月、私はタンゴからマイクに転居した。それによって、職場やインディアブラボーへの出向に際し、高速道に代わって峠を利用する機会が増えた。
スカイラインGT-Rを購入後、実を言うと私はほとんど峠を走ったことがなかった。それは最高速にのめりこんでいたせいでもあるが、何にもまして33GT-Rは重くて動きがモッサリしているため、峠を攻めてもつまらないと私自身勝手に決めつけていたところが大なのである。
4月以降峠を走る機会が増えて、改めて分かったことが一つある。それは、33GT-Rは峠を走っても楽しいということだ。図体の大きさの割にハンドリングはシャープで回頭性が良い。高速道ではしばしパワー不足を感じる500馬力も、さすがに峠では十分にパワフルである。
私としては、沿道で咲き誇る桜の姿を楽しみながら峠をゆったりとドライブしたいところだが、悲しいかな、そのような雅(みやび)を解せぬ無粋な連中が世の中にあふれているものものである。無論、煽ってくる連中を峠で煙に巻くのは極めて容易である。コーナーで少し本気を出せば、たちまち彼らはついてこれなくなる。しかし多くの場合、その先で一般車のため前がつかえるので、再び彼らに煽られて不快な思いをすることになる。
結局、高速道ですてごろ、峠道でもすてごろの日々・・・。一体何時になれば私の心に平安が訪れるのであろうか?
さて本題に入ろう。
本日午前、私がデルタからホテルに抜ける閑散とした農免道路を走っていた時のことだ。
峠を過ぎた10%のきつい下り勾配を、ギアを3速に入れてエンジンブレーキを効かせながら降下していたその時、NA6マツダ・ロードスターが背後に現れた。
” あッ、 ロードスター!! オィオィ、野郎どんどん近づいて来てるよ ”
私のGT-Rも45ノットを上回る速度が出ていたにも関わらず、ロードスターはあっという間に接近してきた。
適度に低められた車高は、コンパクトなロードスターをして十分に威圧感を帯びさせていた。走り込んだためかフロントを中心にヤレた感はあるものの、小綺麗に整備されている風の外観。そこを通る大抵の者がショートカットする急なS字コーナーのラインを綺麗にトレースするハンドルさばき。ドライバーは営業マン風の痩せた中年男であった。
” コイツ、ヤル気だな、バカが。 ・・・・・。 ”
” では、 I'm in, ・・・ now
!! (アイムイン、 ナウ) ”
私が瞬間的にアクセルを踏み込むと同時に、我がGT-R vs
ロードスターの峠下りバトルが始まった。
直線でアクセルを踏んでコーナー手前でフルブレーキング、限界近くでコーナーを攻め、立ち上がりでまた踏む・・・・という定石どおりには、闘いは進まなかった。
わずか一つ目のコーナーから、スカイラインGT-Rの欠点というべきブレーキの弱さが露呈したのだ。33GT-R
はブレンボキャリパーを備えているが、車重に対してサイズが小さいため、その効き具合は至って乗用車然としたもので、スポーツカーらしくバシッと制動するものではない。従ってストレートできっちりアクセルを踏むのは躊躇してしまうし、コーナーへの進入はかなり手前からブレーキングせざるを得ない。
私が思うようにスピードをのせられず四苦八苦する間、ロードスターはずっと我が33Rのケツに喰らい付いて来て、一度も引き離すことができなかった。
戦闘前の雰囲気から凡その察しはついていたが、このロードスターはかなりの手練れが駆るマシンであったのだ。
峠も終わりにさしかかる頃、前方に一般車が現れた。バトルはここで終わりだ。
私が減速し、一般車と距離をとって走ると、同様にロードスターも我が33Rとの車間を拡げた。道理をわきまえた走り屋同士の戦いならではの光景である。
今回、峠下りバトルでロードスターに撃墜されてしまったが、相手が真っ当な走り屋であればそれも本望である。
私は晴れ晴れとした気持ちで峠を後にした。
戻 る