2014年6月某日の夜、仕事を終えた私は33Rに乗って北西に3マイル離れた自宅に帰っていた。
峠(農免道路)を登り始めた時(vsロードスター参照 )、わが後方みつひゃくフィートより急速に接近する機影を確認。私は速度を維持しつつ警戒態勢に入った。
敵はほどなく我が33Rに近づくと、テールぎりぎりにベタ付してきた。
ヘッド・ライトの形状から、敵の正体がクラウンアスリートとアイデニファイされるのに時間はかからなかった。





” やれやれ、またか・・・。どうして峠に来ると走り屋ごっこをするシロートさんにこうも出遭うのだろう?・・ ”
私は、少なくとも3日に1回、多い時には朝夕の通勤で遭遇する、この手の ”走り屋ごっこ”愛好者たちの相手をすることに正直ウンザリしていた。



道は閑散としていた。その気になればクラウンアスリートは我が33Rを抜いていくことができる。
しかし、クラウンアスリートは我が33Rにベタ付けを続けてくる。その尋常ならざる下品さから、私は次のように敵ドライバーをプロファイリングした。



”この手のクルマでこの煽り方は、走り屋というよりもヤンキー系の者、つまり、いわゆる D Q N であろう・・ ”
 


10%勾配の上り坂におけるパワー差を利用して、背後のクラウンアスリートからの一撃離脱を図ろうと、私は33Rのアクセルをいっぱいに踏み込んだ。
RB26が鋭いエグゾーストサウンドを発すると同時に私の体に加速Gがかかる。速度がかるく3ケタを超えた。





”ハイ、さようなら”と、私がルームミラーをちらっと見た時、驚愕すべきことが起きた。
敵も瞬時に強烈なトルクで立ち上がり、完全にベタ付されたまま煽られ続けているではないか!!



背後のクラウンアスリートを振り切ろうと、ゆるやかな見通しの良いS字コーナーを高速で切り抜ける。
しかし、やはり全く引き離せない。恐ろしく速い。ベタ付された車間がほとんど変化しないのだ。
相手はクラウンアスリートのはずだ。一体何が起きている?
2台は完全に連なったまま、峠(最高地点)を通過した。



”これは、プライドをかけた真剣勝負になる・・。いや既にそうなっている。とんでもないヤツと出遭ってしまった・・・ ”



自分の撒いた種 とはいえ、私は急に怖くなった。はたして自分は無事に家に帰れるのだろうか? 万が一負けても、冷静でいられるだろうか? プライドをズタズタにされても、これまでの自分でい続けられるだろうか?
走り屋をしていても、ストリートで本当に強い相手とガチンコ勝負をする機会など、実は少ないものである。私がこれまでに綴ったすてごろ日記がマユツバという訳では決してないが、それでも本当のガチンコ勝負は一握りであったろう。



私は、以前にも述べたが、真っ当な走り屋に負けるのは仕方がないと日頃から考えている。彼らは、峠を速く走る、ただそのために日頃から様々な犠牲を払い、努力をしている。ゆえに相手がインプレッサやシビックなどの本気仕様のマシンであれば、私も笑って敗北を受け入れることができる。しかし、33GT-Rが峠でオヤジセダンに負けたとあれば、それは走り屋として全てを否定されたに等しい悲劇なのだ。



峠を過ぎて、下りのステージに移った。
相変わらずクラウンアスリートはわが33Rの背後に一切容赦なくピッタリとベタ付けしてきた。マシンの戦闘力、テクニック、イヤらしさ、全てが確信犯的に並はずれている。
メンタルの面でナイーブな私ではあるが、この極限状況においても、却って冷静でいられたことは自分でも意外な驚きであった。
最高出力、コーナリング性能、ブレーキ性能で我が33Rがクラウンアスリートに劣る道理はない。しかし先の見えない夜の峠において、100%の力で攻めることはできない。せいぜい95%にとどめ、残りの5%は安全マージンとして残す必要がある。しかし、手練れの走り屋は、この ”5%”スキを見逃さない。実力が拮抗する者同士の戦いでは、追手の実力が多少劣っていたとしても、後追いが有利である。



もう一つ後追いが有利な点がある。それは先行車に張り付くのが苦しくなって来た時、後追いはコーナーにおいて少しセンターラインを割ってやれば余裕が生まれることである。実際、コーナーではわずかにクラウンアリートがセンターを割っているのが見えた。



以上より、我が33Rが先行のまま、このクラウンアスリートを引き離すことはほぼ不可能とシミュレートされたのだ。
しかし、勝機という点では絶望的であったが、私は自分のすべき仕事をすることにおいて戦意を維持し、とっちらかることなく95%の力で最後まで攻め続けた。自惚れかもしれないが、背後にベタ付される状況下で冷静な試合運びを遂行するには、それなりのバトル経験・サーキット経験を積んで場馴れしなければなるまい。





先の見渡せるストレートでは、背後のクラウンアスリートを少し引き離すことができた。私はギアを3速に入れていたが、タコメーターの針が6000回転を過ぎる領域に飛び込み、パチンと弾かれる様な加速をする段階になると、さすがに少し車間が開くのだ。しかし直後にフルブレーキングしてコーナーに切り込む頃には再び背後に張り付かれる有様なのであった。



やがて峠を降りて道路周辺に民家が散在するようになったため、私はアクセルを緩めた。
赤信号で2台が止まった。
不気味な静寂が張り詰める。



と、この時、我が33Rのマフラーから白煙が上がっているのが見えた。背後のクラウンアスリートのヘッドライトの光は我が33Rのタービンから漏れたオイルによる白煙をはっきりと映し出していた。室内にもオイルの焼けた匂いが立ち込めてきた。タービンのスラストベアリングからオイルが漏れたのだろう(*タービンブローであれば大量の白煙がモクモクとでる)。
・・・老朽化した我が33Rは、敵の眼前で引導を渡されたも当然であった。



信号が青になった。
クラウンアスリートは、その後もタービンにダメージを受けた我が33Rに追い打ちをかけるかのように、いっそう冷酷に私を煽り、挑発を続けてきた。これ以上反撃する術を持たぬ私は唇を嚙むほかなかった。万が一ヤサがばれたらマズいと考えた私は、普段と違う細道を経由し自宅に着いた。そこにはもう、すてごろ日記を意気揚々と書き綴る男の姿はなかった。
私も走り屋としての矜持は持っているつもりだが、これまでに多くの強敵を、時には鬼の如く非情に葬ってきたのも事実である。
・・・今回はその報いを受けたのかもしれぬ。




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