9月のある日、ノーベンバーホテルで仕事を終えた私は、およそ60マイル離れたインディアブラボーでの夜勤に向かうため、駐車場に停めたシトロエン・エグザンティア(2000t、130馬力)に乗りこんだ。エンジンを始動するとポンプが作動し、沈み込んだ車高がムクムクと上がり始めた。購入から3か月、心配された足回りのオイル漏れもなく、そのヌメリかつマッタリとした乗り味に魅了されつつ、私はこの車を実用車としてラフに使い込んでいた。





家路を急ぐクルマで混雑した海岸沿いの道(参照 vsベントレー)を55ノットの速度で走っていると、わが後方に日産エクストレイルが迫ってきた。





私は普段から前者との車間を大きくとるよう心掛けている。渋滞発生のメカニズムの1つとして、車間距離の少なさが指摘されている。車間距離が短い場合、ある車が減速をすると、その後方のクルマはビックリして前車以上の減速をする。同じことが後方に繰り返され、だんだんと減速が増幅される仕組みだ。一方、車間距離が大きい場合、あるクルマが減速しても後方のクルマとの車間が短くなるだけで、減速が後方に伝播することは無い。いわば車間が緩衝剤として作用することで、渋滞発生の主要因である、この ”減速の後方伝播”が防止されるのである。これはコンピューターシミュレーションで解析された渋滞発生の理論であり、一見すると直感に反しているようにみえる。なぜなら、車間を詰めれば詰めるほど、より多くのクルマが道路を走れるようになり、渋滞が緩和されると考えるのが自然だからである。



このエクストレイルは混雑した道で悠然と走る我がシトロエンにイラついたのだろうか、車間を詰め、隙あらば追い越しを掛けようとしてきた。しかし反対車線もクルマが走っているのでどうすることもできない。無論、私も他に迷惑をかける走りなどしていない。ただ一定の速度で走っているだけだ。事実、私の前を行く車列のクルマ達は速度のムラが大きかった。前が空けばアクセルをガバっと踏み、前が詰まればブレーキを踏むの繰り返しであり、私も結局すぐに追いついてしまう状態なのだ。





渋滞をぬけてインディアICでマイク自動車道上り線にのった。後ろのエクストレイルも続いてきた。
私はエグザンティアのアクセルを大きく踏み込み、エクストレイルを引き離しにかかった。エクストレイルは無駄だとばかりに追い上げてきた。
1車線の道で、両者の速度は70ノットに達した。




なぜ人は自動車で小競り合いをするのだろう。関係ないアカの他人が、いつも信号ではきちんと停止するのに、なぜ高速道路でスピードごっこをするのだろう。
互いに憎みあっているのか? ならば車をおりて、堂々とすてごろをすれば良い。そんな勇気もない、半端な人間だからこそ車でイキがるのだ。




そんな思いが頭をよぎっているうちに道が2車線になった。
私は追い越し車線に移りアクセルを床まで踏みぬいた。やはり2Lの自然吸気、遅い。



外車オーナー曰く、
「国産より欧州車の方が実トルクがでているので高速はラク」
何を言うか。
「速度が上がるほど、ビタッーと路面に張り付いて安定するよ」
それは国産よりハンドルが切れない(小回りが利かない)からそう感じるだけだ。



ちなみにシトロエン・エグザンティアはボディ剛性が低く、段差などでは明らかにボディが軋む。小回りが利かず車庫入れなどは苦労するが、おかげで高速道でハンドリングが安定するのは事実である。低いボディ剛性とプアなタイア(185/65 15インチ)を考慮すれば見事と言う他ない。



幸い、エクストレイルは280馬力のターボではなく、同じく2Lの自然吸気モデルであることがその加速から分かった。
両者の加速はほぼ互角、わずかに当機がリードする程度であった。
速度が100ノットに達した時、エクストレイルはリミッターが効いたのか車間が開いた。
”かっかっか!こーなるの最初から分かってるだろ、馬鹿が・・” 勝負に勝った私は相手を罵った。
しかし、はるか前方で追い越し車線に車線変更する車が見えたので私は早めにブレーキングを開始。前車にゆく手を塞がれると、すぐにエクストレイルが追いついてきた。




エクストレイルはいささか闘争心をくじかれたとみえたが、依然喰らい付いてきた。
相手が戦線を離脱しない限り、こちらも休憩に入ることはできない。
結局、我々はエクストレイルが下車したタンゴICまでの40マイルを、前が空きエグザンティアが引き離す→前が詰まりエクストレイルに追いつかれる、を繰り返した。
混雑した道では、パワー差やリミッターの有無で敵より優位にあっても、しばしばこうした状況に陥るのだ。



バトルから解放され、すっかり暗くなり街灯がともるインディアの街を高速道路の高架から見渡した。
私自信も以前あれほど嫌っていた愚かな外車乗りになったと感じずにはいれなかった。




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