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2014年12月某日
vsエスティマ
時刻ふたひとひとまる、冷たい雨のぱらつく中、私は深夜勤に向かうためブルーバードシルフィを駆り、マイクから30マイルノースに位置するインディアブラボーに抜ける峠道を走っていた(ダイハツ・マックスとのバトル参照)。
周囲に我がブルーバード以外の車は走っていなかった。
ダム湖を超えてタンゴ峠登りに差し掛かった時、後方よりHIDライトを輝かせた1台のクルマが接近。
私は念のため警戒態勢に入った。
まもなくそいつは軽快なペースでワインディングを駆ける我がブルーバードに追いつき、ぴたりと背後をとってきた。
トヨタ・エスティマだ。
多少の車間を空けてくれればスマートに道を譲ろうと考えていた私であったが、エスティマとの戦闘に向けて作戦を練らざるを得ない状況になった。
・・・一度走り屋家業に足を踏み入れてしまうと普通のクルマに乗り換えても簡単には足を洗えないものなのだ。
あえてエスティマに追い抜かせて後行で攻めるか、それとも我が機が先行でブッちぎるか。
それぞれの戦法のメリット・デメリットを勘案しつつ私は後者を選択した。
後追いの場合、単に後方より煽るだけという攻撃は相手がバトル慣れした者であれば効果が期待できない。かといって夜の峠でエスティマ相手にもう一度抜き返すことはほとんど不可能であろう。先行であれば、敵との出力差や路面がウェットであることを考慮すると苦戦を強いられるおそれもあるが、少なくとも敵の目的すなわち我がブルーバードを撃墜するということは阻止できる可能性があるのだ。
バトル開始。
まずはアクセルを徐々に踏み、エスティマの反応を探ることにした。
コーナーをクイックに切りかえし、登り8%のきつい勾配を一気に駆け上る。
しかしエスティマは我がブルーバードの後ろでギチギチにつめた車間をビタ一文広げてはくれない。
彼の私に対する敵意は良く分かった。
また、彼が普段からこうして他のクルマをイジめているであろうことも容易に想像された。
戦闘状態に入った2台はもつれたままタンゴ山最高地点のトンネルに突入した。
”テメェが峠でそこそこ速ぇーことは分かったよ。だが、最高速はどうかな? ”
2マイルに渡る長いトンネル内のストレート。前方に他のクルマはいない。
私はブルーバードシルフィのアクセルをべた踏みした。
1800tで110馬力程の非力なエンジンではあるが、それでも車の速度はズイッーと理屈通りに上がってゆく。
70ノット・・・80ノット・・・! 並みの相手なら限界を迎えるあたりだろう。
しかしエスティマはキッチリ追いかけてくる。高速におののき戦意を失ってくれるような生易しい相手ではないようだ。
”コラッ、ここは一般道だぞ。なに交通ルール無視してんの? つまらん輩め・・”
自らのことは顧みず私は相手を罵った。
ついに我がブルーバードの速度はリミッターの作動する100ノットに達した。
33GT-R
を手放して半年にも満たないが、感覚が鈍ったせいか久々の100ノットは恐ろしく速い世界に感じられた。
それはともかく、エスティマは依然ぴったり後ろに張りついて煽ってくる。稀にみるイヤらしい相手だ。
やがて我がブルーバードはメーターの針が100ノットを少し上回ったところで速度がサチュレートした。まだリミッターが作動する感じはない。
この時、背後のエスティマが我がブルーバードから少し離れ始めた。
”やたッ! ヤツはリミッターが当たりやがったか・・”
速度リミッターの作動ポイントはメーカーごと、車ごとに多少の誤差があるのだ。
トンネルを抜けると直後に下りの左コーナーが待ち構えていた。
私はトンネル内かなり手前から余裕をもってフルブレーキングを開始した。
せっかく引き離したエスティマが再び背後に迫ってきた。
本音を言えばここで”攻めるブレーキング”を繰り出したいところであったが、そんなことができるのは真の上級者だけであろう。
なぜなら、@100ノットという高速、A下り坂、B路面がウェット、という極めて過酷な状況だったからである。
いうなれば雨天の富士スピードウェイホームストレートでフルブレーキングしながらきれいなラインを描いて第一コーナーに侵入する様なもので、アマチュアの走り屋がトレーニングしがたい状況だったからである。
実際、安全マージンを十分に取ったつもりでかなり手前からブレーキングを開始したにもかかわらず、コーナー進入で高速道路追い越し車線並みの速度までしか減速できていないことを知った時はさすがに私も肝を冷やしたのであった。
直前まで100ノット出していたため完全に速度感が狂っていたのだ。
微妙にアンダーステアをだしたせいか、我がブルーバードのハンドリングから手ごたえが希薄になった。フェードしかけたのか、ブレーキのタッチも柔らかくなった。
もう限界でこれ以上攻めると確実に事故る、と確信した私は努めてペースを抑制した。
エスティマはまだしつこく背後に喰い付いてきている。あの車高と車重で驚くべきことだ。
私は今さらながら敵を見くびっていた事に気が付いた。
だが闘いを止めることはできない。
相手も神ではない。エスティマも無理をしているにちがいない。
私は戦意をふりしぼり、峠の下りを攻め続けた。
エスティマは集中力が切れたのか、車間が少し開き始めた。しかし決定的に引き離せる程ではなく、油断するとすぐに車間を詰められる。
そのうち前方に一般車列が現れた。ここでようやくバトル終了。
エスティマもバトル終了を認めたかのごとく我がブルーバードとの車間を大きく拡げた。
” !?、いっちょまえな事しやがって・・。 もっとイノシシの様に攻め続けて来いよ! ”
急に大人びた態度をみせたエスティマに対し、バトルの興奮冷めやらぬ私は、こちらも敢えて減速して待ってあげるカラ元気をみせつけた。
舐めてかかってきた敵に一矢報いたという余韻と、事故らずに済んだという安堵と、同時にまた悪行を一つ積んでしまったという後悔の念にかられながらインディアブラボーに到着した。
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