走り屋家業から足を洗う決意でBCNR33からブルーバード・シルフィ QG10)に乗り換えた私は、その晩タンゴ峠を経てインディアブラボーに向かっていた。
新しい相棒は普段の街乗りでは問題ないが峠を走ると1800ccの排気量の割にパンチ力が全然足りない印象である。リッター16qの優秀な燃費と超低排出ガス基準をクリアーするというのであるからそれもやむを得ないといったところだろう。いわんや私はもう紛争を武力で解決することは放棄したのであるから。





さて、人気のないダム湖周辺のワインディングを通過している時、後方に1台のクルマのライトが見えた。その車はかなりスピード出しており、あっという間に私の背後に迫ってくるやいなやテール・トゥ・ノーズでベタ付けしてきた。



”ホンマ走り屋ごっこ好きなヤツ多いの・・。煽りさえせんかったら、いくらでも道譲ってやんのに・・”



出家したつもりが残念なことに娑婆の煩悩を完全に断ち切れていない私は、背後の無礼者をどのようにさばくか作戦を立て始めていた。
相手は軽自動車といえどもボンネットにはターボであることを示すダクトが認められた。このステージでターボ相手ではこちらが撃墜されることも十分あり得る。
緊張が走る。



         ダイハツ マックス


”ほなちょっと遊んだろか。 ナウ!! ”



私は瞬間的にアクセルを踏み込み戦闘態勢に入った。
わがブルーバードとダイハツ・マックスとの車間がひらいた。一瞬出遅れたダイハツ・マックスも即座に戦闘態勢に入り猛烈な勢いで追いかけてくる。きっと私の挑発に対し憤慨したのであろう。
しかし今回は相手が悪かったようで、テクニックをフル活用して攻めた私はダイハツ・マックスを引き離すことに成功。



その先で一般車の車列につかまると、ダイハツ・マックスが追いついてきて再び私を煽ってきた。
さらにその車体をセンターラインよりに少しずらして追い抜きのポーズを見せてきた。無論、前方が詰まっているため追い越しは不可能だ。



”いっちょまえにプレッシャーをかけているつもりか? 典型的な挙動パターンをみせるヤツよ・・”



私は前方の一般車と40フィートの車間を保つことで背後のダイハツ・マックスが追い越しをかけてくることを抑制した。
実は前車との車間を詰めすぎるとむしろ背後の敵は2台まとめて追い越しをかけやすくなり、この40フィートの車間が最も追い越しにくい距離とされているのだ。





とここで小さなタヌキの死骸が路面に横たわっているのが目に入った。
私はモーションが起きないようにハンドリングをコントロールしつつ、タイヤ側面ギリギリでタヌキの死骸をかわした。
予想された如く、私を煽ることに血眼(ちまなこ)になっていたダイハツ・マックスは突如現れたタヌキの死骸に驚き、それをかわそうと挙動が大きく乱れた。
これは実に隠微な戦技(と呼べるか不明)であるが、特に夜間は成功率が高い。
こちらの障害物をかわす急な動きは背後の相手に路面上に何か危険物が有ることを察知させるものである。今回はそれを逆手にとることで敵を謀ったのだ。



峠を下ってインディアブラボーに至り信号で停車した時、ルームミラーを通してダイハツ・マックスのドライバーのシルエットが見えた。
しつこくイヤらしい走りではあったが、攻め方がイマイチ甘い点から私がプロファイリングしたとおり、ドライバーは女であった。





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