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  • 2012年某日、私はRに乗り、ユニホームを出てある国道を北上していた。
    左手に穏やかな内海を臨む峠道を快調に進んでいた時のことだ。
    登坂車線の
    2車線が終わりにさしかかった頃、異様な速度で我がRに接近してくる1台の車があった。
    その驚きで、私は心臓の鼓動を一瞬乱された。
    車幅の広さと威圧的なフロントマスクから、そいつが只者でないことは直ちに理解された。



          

    マセラッティ・クアトロポルテ(2.8L V6ターボ 285ps)である。
    そいつは、当方が遅からぬ速度で走行中であるにもかかわらず、背後にぴったり張り付いて煽り、さらにセンターライン側に少し車体を寄せることで、追い越しの意思表示ならぬプレッシャーをかけてきた。
    その場からの逃げ出したくなるような恐怖と、めったに出会えない敵と勝負できる歓喜という、2つの相反する感覚に襲われ車内で1人武者震いするのが、私の自動車趣味における変質者たる所以である。


     


    さて、このマセラッティを如何にさばくか? 

    1.バトル開始 2.相手にしない 3.道を譲る

    まずはシミュレーションを行い、それぞれのメリット・デメリットを勘案しつつ決定を下す必要がある。



    1.の場合


    マセラッティ・クアトロポルテが典型的なイタリアン・グランツーリズモであることを考えれば、インテ
    R以上のクラスの国産マシンであれば峠において十分戦闘可能であろう。しかし、ストリートバトルではしばし一般車によってバトルが中断され、完全に決着をつけることは困難な場合が多い。さらに、先行マシンはより高い事故のリスクを背負わされことになる。また、車の加速乃至コーナリング性能等、手の内を後行車に暴露することにもなる。
    中途半端にペースを上げた場合、相手はバトルするつもりで煽っているのだから当然スピードを上げてくる。当然相手から逃げ切ることはできず、ただ相手に満足感を与えるだけの結果に終わる。


    2.
    の場合


    最大のメリットは、事故のリスクを回避できることにある。そして仮に事故に巻き込まれても法的な正当性を主張できることである。当方が常識的な運転を行う限り、相手が追突して来たり、あるいは無理な追い越しをして事故を起こした場合、相手側が全面的な責任を負うことになる。一方、他車を煽ることは悪いことであるが、実際に法的処罰の対象になることは稀であり、残念ながら日本には煽り行為を平然と行う愚かなドライバーが何百万人と存在する。


    3.の場合


    道を相手に譲った場合、譲られた方は気持ちよく抜いていくであろうし、譲った方も以降相手と関わることなく自分のペースで運転が続けられる。最も安全な選択肢であり、同乗者がいる場合は第一選択となりうる。





    私は 2.を選択することにした。憤慨に駆られ戦闘を初めても、一般道の場合、仮に一時的な優勢を保ったとしても、最終的にそのまま有利な状態で戦闘を終えられる可能性が低いことを私は経験的に知っているからだ。
    少しアクセルを踏み込んでやることで相手の反応を探るが、マセラッティはきっちりそれに呼応して食いついてくる。やはり
    GT-Rに対し敵意を持っていることは間違いないようだ。
    結局、峠を走っている間、マセラッティはずっと我がRの背後で挑発的な煽りを続けていた。



    峠を越えるとシエラユニホーム・インターチェンジがあり、私に続いてマセラッティもマイク自動車道に乗った。
    田舎なのでしばらく片側一車線の区間が続いた。マセラッティは、峠の時と同様、高速道路でもなお我が33Rを煽っている。



    実を言うと、私は峠を走っている時からこの状況を期待し、秘かに伏線を張っていたのである。
    他車を煽るドライバーは、自分の方が優位に立ったと錯覚するものである。相手を油断させるために、勝負すべき時まで爪を隠すことも戦術の一つである。
    マセラッティは追い越しの2車線区間が始まる少し前より、我が33Rから車体を半身右側にずらしてプレッシャーを掛けてきた。


          


    追い越し区間がやってきた。私はすぐさま一般車をかわし、右車線に移りアクセルを開けた。
    戦闘開始。さあ、楽しませてもらおう、マセラッティ・クアトロポルテ。
    マセラッティも私に続いて追い越し車線に移る。
    さすがにマセラッティも
    2.8Lターボだけに速く、こちらが80ノット出してもきっちり追いかけてくる。
    マセラッティに左車線から追い越しをかけるような無粋さは見られないが、威圧することで相手に道を譲らせるという感じの走りだ。
    こちらもパワーに頼っていきなり全開で加速するような無粋なマネはしない。
    徐々に速度を上げることで相手の実力を引き出し、出し切ったところで勝負しなければ面白くない。

    と、ここで前方追い越し車線上に別の速い車を発見。2本だしマフラーから車体後方にむけて広範に黒煙が広がっている。



    ” アウディA8だ! あッ、アイツ・・、踏んでやがる! ”



    それは、我が33Rの前方で大人しく走っていたため気にも留めていなかったアウディ
    A84.2Lのクアトロ(335ps)であった。




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