2014年5月のその日は朝からよく晴れていたが、昨日降り続いた雨のためシエラユニフォーム町にはムンムンとした空気が立ち込めていた。夜間業務を終えた私は簡単な朝食を済ませ、50マイル北のマイク市を目指して最寄りのインターより自動車道に乗った。
通勤ラッシュの時間を過ぎた自動車道は実に平和で閑散としていた。運送業者のトラック、主婦の運転する軽自動車。たまに営業車が飛ばしていたりもした。



山間の町オスカーに入り道が2車線に広がった時だ。
我が33Rの500フィート後方に現れた1台のクルマに、私の ”レーダー”が反応した。徐々にこちらに接近しつつあるようだ。
私は警戒態勢をとった。
そのクルマとの距離があるため車種は特定できないが、車幅が広いため遠目からでも威圧感が感じられる。
緊張が高まる。





2車線の区間が終わりにさしかかる頃、背後に迫ってきた敵機をアイデニファイ(identify)した。BMW 5シリーズ(E60)であった。
BMWは我がスカイラインGT-Rを見て高速バトルの格好のカモと認識したのであろう。我が後方にぴったりと張り付き、オラオラという感じで威圧してきた。



このような穏やかな天気の日に戦(いくさ)をせねばならぬのか・・・、残念である。
久々の高速バトルを前に、私は不安と緊張で胸が苦しくなった。


 
前を走る一般車に続いて、片側1車線の道をしばらく走った。
追い越し車線で勝負する瞬間までこちらは一切アクションを行わない方針とし、敵を観察する。
フロントガラスを通して見える薄暗いBMWの室内には、ハンドルを握る40歳前後の男と助手席に座る女が乗っていた。ベタ付してくるため、このような戦略的重要所見が私にダダ漏れであった。BMWは、女連れという戦闘にはそぐわない態勢で、4点ハーネスでガチガチに体を締め上げて戦いに備えている私に対し勝負を挑むつもりなのか?



BMWのフロントマスクは、標準仕様と異なりバンパー開口部が大きくとられたタイプであった。まさか507馬力を発揮する5リッターV10を搭載したM5じゃないだろうな?
いや、さすがにM5の可能性は低いと思われ、恐らくはMスポーツ仕様であろう(* M5とMスポーツのフロントヴューは極めて似ているが、フロントバンパーサイドインテーク内の補助ランプの有無や、同部位のスポイラーの向き、サイドミラーなどに細かな違いがある)。
Mスポーツである場合、525iや530iであれば当機にも余裕があるが、550iクラスになると相当速く、局地戦では決着がつかないおそれもある。
背後の敵の素性が分からないことに起因する不安が、その後のバトル中ずっと私についてまわった。


 


ついに追い越し区間がやってきた。
私がGT-Rのギアを4速に落して右車線に移り、前方の一般車を追い越そうとした時、少し車間を空けていたBMWが助走をつけて一気に私の背後に迫ってきた。



” やはり来た! ナメやがって・・・。言っとくが俺はお前がこれまでイジめてきた国産車とは一味違うぞ。さあ、来い! ”
私はアクセルを大きく踏み込んで加速を始めた。バトル開始。




我が33Rのテールから淡い黒煙が後方に広がるのがルームミラーを通して見えた。
その黒煙を切り裂くように、BMWが牙をむいて襲い掛かってくる。
さすがにBMWも速く、簡単には引き離せない。喰い付いてくる。
無論この速さこそ、彼の尊大な態度の自信の源泉である。



速度が90ノットに達した。ここに至り、我が33Rのタービンが本格的に仕事を始める。
そこからリミッター域を超えて、徐々に2台の差が開き始めた。私はギアを5速に入れて、なお粛々とアクセルを踏み続けた。
さすがにBMWもついて来ることができず、車間がだいぶ離れた。



追い越し区間が終わり、道は再び1車線になった。
路面のアンジュレーションが強く、車体が飛び上がりそうになって危険なので速度をリミッター域まで落とした。
BMWとはだいぶ距離があいたが、まだ頑張ってついてこようとしているようだ。
ゆえにこちらもまだアクセルを緩めることはできない。
私も無理をして走っている。敵も相当に必死なはずだ。”片手ハンドルでも真っ直ぐ走る高速安定性”うんぬん等とほざかさぬぞ。



前方にヴィッツが現れたので私は減速した。そしてヴィッツとの車間を十分とって何事もなかったかの様に平静を保ち、追いついてきたBMWに見せつけた。
BMWは未練がましく再び我が33Rを煽ってきた。



” お前では勝負にならんことが理解できてないのか? 懲りねぇ野郎だ・・ ”





次の追い越し車線がやってきた時、私は再びGT-Rにムチをいれて加速体制に入り、ヴィッツをパス。そしてルームミラーで後方を確認。



” あれっ? 来ない・・・ "



その時、私はBMWが既に戦意を失っていたことを知った。

    

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