2012年の8月某日、私はBCNR33を駆り、今しがた降った雨で濡れたマイク自動車道下り線シエラ峠付近を走行していた。
ノロノロ運転により追い越し車線を塞いでいる一般車に続いていたところ、後方より猛烈な速度で接近してくるカローラを認めた。
直ちに警戒態勢に入るとともに、私はカローラの挙動に注意を払った。カローラが何らかの挑発行為をしてくると予感したのだ。


            


カローラは我がBCNR33にベタ付したあと、どかないと分かると今度は走行車線に移り、左から我がBCNR33をパス。
やれやれ、私が進めないのは前方の一般車が遅いためであるが、それが理解できないのだろうか?
無論、走行車線にも一般車がいるため、カローラは前を立ち塞がれてしまった。
すると、予想された様に、カローラは我がBCNR33の鼻先に強引に割り込んできた。



このような腹立たしいシチュエーションは、日常ドライビングにおいてしばしば経験されるものだ。
つまり、前の車を追い越そうとして隣の車線に移動するも、結局そちらにも遅い車がいて行き詰まってしまう状況だ。
このような時、冷静に判断するならば、少しの恥を忍んで追い越しを中止し、追い越そうとした車の後方で再び元の車線に戻ればよい。
しかし、頭に血がのぼった愚か者が危険な割り込みをしてくるのは必至である。



こちらのとり得る手段は2つある。一つは前車との車間を徹底的に詰めて、割り込む余地を完全に潰すことである。
もう一つは前車との車間を十分とって、愚車と接触する危険を回避することである。
街中バトルでは前者が時として有効な場合がある。
しかし、最高速バトルでは瞬間的な勝ち負けは戦闘の大局にはほとんど影響を与えないので、後者の方が良いだろう。



話が脱線した。割り込んだカローラの強烈な煽りを受けた一般車はたまらず左車線に戻った。
カローラの前方はクリアー。わがBCNR33がそれに続く。バトル開始。
シエラ峠上りのコーナーセクションが続く。
バトルの序盤から憤慨に駆られ、カローラを煽り返すなどということは無粋である。
まして路面はウェットであり、乱暴なアクセルワークからスピンに至る危険性があることから、60フィート程の車間をあけて追走する。
カローラは、水煙をまき上げながら緩いコーナーを80ノットの高速で駆け抜ける。なかなかの踏みっぷりだ。
カローラに車速を落としたり、走行車線に戻って私に道を譲るといった兆候は感知されない。
自分がもし先行だったら、ここまでリスクを冒して攻めることはせず、もっとマージンを残した走りに徹するだろうなという思いが頭をよぎる。



コーナー区間が終わり、トンネルが連続する直線区間に入った。我が33Rに背後から攻め続けられたカローラはついに走行車線に移動。
私はいかんなくGTRのパワーを発揮し、カローラをぶち抜いた。


   


ただ路面がウェットなので、カローラを抜いたあともあまり無茶な走りはできない。
しばらく行くと、我がBCNRは前方の一般車列に捕まってしまった。
再びカローラが追いついて来た。カローラは先ほど大きなパワー差を見せつけられたにも関わらず攻撃の手をゆるめず激しく煽ってくる。
全く戦意を失っていない。どうやらドライバーはバトル慣れしている手練れとみた。
もしカローラでなく、他のもっとパワーのあるクルマに乗っていたら、かなりてこずる相手であることは間違いなさそうだ。




結局、このしつこいカローラとの闘い ―引き離しては追いつかれての繰り返し― はマイクICで降りるまで延々と続いた。
最高速戦技の祖ともいうべきポール・フレール氏は、「最も優秀なドライバーは最もゆっくり走って優勝するドライバーである」と自著の中で述べている。
これは先行車がさらに差をつけようと焦って無理をする必要は全くないということ示した格言である。
相手が一定以上の戦闘意欲を有する場合で、混雑していたり、路面がウェットであれば、敵を完全撃破することよりも、敵の攻撃をブロックすることにポイントを置くべきである。そのような割り切った意思決定が重要であることを本戦技課程では強調したい。



                           
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