その日、ある地方会議に出席するため、私は上司である連隊長殿を33GT-Rにお乗せして、ユニフォームから120マイル・ウェストのタンゴシエラに向かうことになった。
何もわざわざ乗り心地の悪いGT-Rに乗らずに鉄道で行けば快適なものを、と思ったものの、好奇心の強い連隊長殿はクルマ馬鹿で通っている私の33GT-Rに一度乗ってみたいと申されたのである。穏やかな秋晴れのもと、マイク自動車道上り線を周囲と同じ法定速度+αで巡航する。



” なんだよ、意外と安全運転じゃねーか ”  と連隊長殿がおっしゃった。



私にしてみれば、往復で240マイルもの長距離をGT-Rで移動する機会は滅多になく、道中の”すてごろ”を楽しみにしていたのではあるが、それも叶わぬこととなった今、ただ魂を抜かれたように運転手役を務めるほかなかったのである。
平日ではあったが、マイクIC付近より道が混雑してきたので、私は追い越し車線を走っていた。
連隊長殿を助手席に乗せている以上、無茶な速度は出せず、なおかつ追い越し車線を走る車の邪魔にならない程度に急がねばならない。
その時、私のレーダーにイヤなものが移った。はるか後方に、ワルそうなW221ベンツSクラスを認めたのである。



                      


一般に、高速道路におけるベンツSクラスは、人々から最も畏れられているクルマの一つである。
我がGT-Rと後方のベンツSとの間に入って緩衝剤の役割をはたしてくれる車が現れるのを期待することなどできないのだ。
ほどなくベンツSが我が33Rの背後に迫ってきた。
この時私は迷っていた。



” どうしてよりによって連隊長を乗せている時に、こんな楽しい相手がやってくるんだ?
  110ノットくらいまでなら連隊長も許してくれるだろうか? そこまで速度を出せばベンツSも諦めてくれるかも ”



私はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
75ノット・・・・80ノット・・・・・90ノット・・・・速度が上がるにつれて景色の流れが速くなってくる。
無論この速度でもGT-Rは安定しきっている。
後ろに張り付いたベンツSは余裕でついてくる。当たり前であるが。



” ・・・・・・。 ”   我がGT-Rの助手席に座る連隊長殿は黙っていた。



速度計はついに100ノットを超えた。しかし背後のベンツSは俄然やる気でますます煽ってくる。
最高速バトルの醍醐味はまさにここからであるが、連隊長の身に万が一のことがあってはならない。
ついに私は涙を呑んでアクセルを緩め、ベンツに道を譲った。
S500L AMGエディションは我がGT-Rを追い抜いて走り去って行った。



” お〜!、やっぱベンツは速えーなー。はっはっは、お前悔しいんだろう ヽ(^o^)丿(連隊長) 。 ”



         

本例は、自分にとって都合良く戦況を予測したために、完全に自爆してしまった私の苦い失敗談である。
闘争心のみにとらわれず、シミュレーション結果をストリクトに適用し、忍ぶべき時は忍ぶ、これは鉄則である。




                                  戻 る















inserted by FC2 system